永遠の女王マリカ。彼女は神であるが、彼女の他にも神が存在する。
その神の一人から考察を始める。その過程で、四鐘楼の存在意義や、永遠の都が滅んだ理由にまで考察が及ぶ。果てには、ラニの目的やマリカの過去、ミケラの向かう先、しろがね人の目的にも光を当てるものとなる。
そして、黒き刃の刺客にとって陰謀の夜の目的が何だったか、ひとつの考えが得られる。
神と王
エルデンリングでは、神と王のふたつの単語がキーワードとなる。例えば、プレイヤーはエルデの王となるために奔走し、最終的には神マリカにまみえることとなる。
ラニのイベントの最後では、プレイヤーを王とし、神人たるラニを神とする律が始まる。血の君主であるモーグはミケラを神として新たな王朝を作ろうとしていた。この他にも、いたるところで神と王がセットで語られる。
マリカやその子供たちのデミゴッドの他にも、神とされる存在がいる。まず、そのひとつに焦点を絞って考察を進める。
ファルム・アズラの王と神
ファルム・アズラには王がいる。竜王プラキドサクスである。
プラキドサクスにも、対となる神がいた。
竜王の追憶黄金樹に刻まれた
竜王プラキドサクスの追憶
時の狭間、嵐の中心に座す竜王は
黄金樹の前史、エルデの王であったという
だが神は去り、王は帰還を待ち続けていた
この神は誰か。
「黄金樹の前史」と書かれているように、この神はマリカではない。
そして、プラキドサクスはただの王ではなく、エルデの王であった。
本作では王と神がセットとなると何度も書いた。エルデの王とは、エルデンリングを宿す神の伴侶である。これはエンヤの言葉からわかる。
エンヤ
"女王マリカは、エルデンリングの宿主、その幻視を宿す者"
"すなわち神さね"
エンヤ
”だが彼女は、罰せられてなお神であり、幻視の器なのだ”
”その器に大ルーンを捧げるとき、お主は彼女の伴侶、エルデの王となろう”
つまり、マリカより前に、エルデンリングを宿す神が存在していた。これを考察していくことで、非常に多くのことがわかる。
ファルム・アズラのエルデンリング
ファルム・アズラには、黄金樹の前史のエルデンリングをかたどったものがある。
形が現在のエルデンリングとは異なっている。これを現在のエルデンリングと比較する。
並びはちがうが、どちらにも4つの輪がある。
とはいえ、二つは大きく異なっている。現在のエルデンリングには格子と上の離れた弧がある。一方で、過去のエルデンリングには木の根のような模様と、巻き付くような二本の曲線がある。(他にも特徴はあるが今回は扱わない)
エルデンリングは律を意味する。ならば、エルデンリングの違いは律の違いとなるだろう。
エルデンリングにおいて律とは、端的に言えば世界を支配する法則のことである。
マリカの時代の律は黄金の律である。
エンヤ
”偉大なるエルデンリングは、黄金の律”
”それは世界を律し、生命は祝福と幸福を謳歌する”
では、ファルム・アズラの律とは何だろうか。
ここから、律の違いの考察に移る。
輪に注目する。
ファルム・アズラのエルデンリングでは、輪に優劣もなくただ重なり合っている。
対照的に、マリカの時代のエルデンリングでは、3の輪の中心に1つの輪がある。
中心の輪は、恐らく永遠のルーンであると考えられる。
黄金と永遠
なぜ中心の輪が永遠のルーンと言えるのか。
中心の輪は、要の輪と呼ばれ、黄金の一族のデミゴッドが有している。
ゴドリックの大ルーン(一部抜粋)
その大ルーンは、要の輪と呼ばれ
エルデンリングの中心に位置していた。
エルデの王、ゴッドフレイとその子孫たち
黄金の一族は、最初のデミゴッドであったのだ
モーゴットの大ルーン(一部抜粋)
その大ルーンは、幹を持つ要の輪であり
それは二つの事実を示している
忌み王が、黄金の一族として産まれたこと
そして、確かにローデイルの王であったことを
エルデンリングの世界において、黄金とは永遠の象徴である。
竜の末裔とは違って古竜は永遠である。そしてその身には黄金がある。
竜王の岩剣
原初の雷を宿したさざれ石の刺剣
追憶から得られた、竜王の力の片鱗
永遠なき、卑小な竜の末裔たちに
高い威力を発揮する
竜王プラキドサクスの体から、ところどころ黄金が見えると気付いた人も多いのではないか。
竜王プラキドサクスも、永遠である。
プラキドサクスの滅び
それは、時の狭間に永遠に座した竜王の
滅びゆく断末魔であった
黄金のきらめきを宿した血はずっと腐らない。永遠である。
獣血
黄金のきらめきを宿した、獣の血液
アイテム政策に用いる素材のひとつ
肉食の獣を狩ると、手に入ることがある
ずっと腐ることがない
もちろん、我々の世界では放っておけば血は腐る。
そして、黄金の排泄物はずっと大便である。
金の排泄物
何者かの排泄物、金色の大便
アイテム製作に用いる素材のひとつ
森や茂みに、隠れていることが多い
金色の大便は安定性が高い
乾かず、その熱と臭いを失わず
それはずっと大便である
もちろん、我々の世界では放っておけば大便は熱と臭いを失って土に還る。
一方、黄金は我々の世界でも腐食耐性が極めて高い。銀は錆びて黒ずむがゆえに銀磨きの職人がいるのだが、黄金は磨く必要もない。(なお、銀は月に深い関係がある)
永遠の象徴たる黄金が世界の律として組み込まれていれば、黄金の血や便が永遠に保たれるのも納得である。
これらのことから、黄金の一族から得られる中心の輪は、永遠のルーンであると言えそうである。
マリカは永遠の女王と呼ばれている。
もとは対等だった4つのルーン。そのうちの永遠のルーンを中心に置いたために、マリカは永遠の女王と呼ばれているのではないだろうか。
赤と死
永遠の対義語として終焉が挙げられるが、終焉とは死とも言える。
永遠の象徴が黄金であったのに対し、死の象徴は赤である。
この根拠を述べる。
黄金律が始まる前にも黄金樹は存在していた。
黄金樹の護り(一部抜粋)
そのはじまりにおいて、黄金樹の敵は全てだった
数知れぬ戦いと勝利によって、それは律となったのだ
原初の黄金は赤みを帯びていた。
オルドビスの大剣(一部抜粋)
原初の黄金は、より生命に近く
故に赤みを帯びていたという
この剣は、その古い聖性を宿している
シルリアの樹槍(一部抜粋)
黄金樹の原初は、生命に近しく
その坩堝たる様を模した槍は
古い聖性を宿している
黄金律は死のルーンを取り除くことから始まった。
死王子の修復ルーン(一部抜粋)
黄金律は、運命の死を取り除くことで始まった。
エンヤ
死のルーンとは、即ち運命の死
黄金の律のはじまりに、取り除かれ、封じられた影
以前の黄金は赤みがあった。そして、かつては死のルーンが存在していた。
ならば、エルデンリングの世界では赤が死の象徴となると言える。
ふと疑問に思うかもしれない。死を取り除けばむしろ生命に近くなるのではないか。
ところが、本来の生命は永遠ではなく、いずれ死ぬ。死を取り除けば生命から遠ざかることになる。
ところで、運命の死の力を宿すマリケスの黒き剣は赤い。運命の死を盗んだ黒き刃の刺客の戦技も赤い。死のルーンそのものも赤い。
ちなみに、運命の死すなわち死のルーンを失った神肌の使徒たちの黒炎はマリケスのものと違って赤みがなく、ただ黒い。
薙ぎ払う黒炎(一部抜粋)
黒炎とは、すなわち神狩りの炎であった
しかし、マリケスが運命の死を封じた時
その力は失われた
死のルーン
話を戻して、再び二つのエルデンリングを比較する。
今まで書いたことが正しければ、過去のエルデンリングには死のルーンがあるだろう。
では、どれが死のルーンだろうか。
死のルーンは運命の死とも呼ばれる。
エンヤ
死のルーンとは、即ち運命の死
プレイヤーは黄金樹を燃やすためにマリケスから運命の死を奪う必要があった。
運命の死を用いれば、黄金樹や神にも死をもたらせられる。
神の死といえば、思い浮かぶ武器がある。
神の遺剣、指殺しの刃、神狩りの剣がそうである。これらの武器は、特殊な形をしている。巻き付く二本の曲線が見受けられるのである。
神の遺剣
永遠に死ぬことのないはずの
神の遺体から生まれる剣
人々はそれに様々な意味を見出す
大いなる罪、破滅、時代の終わり
あるいは始まりを
指殺しの刃
永遠の都、ノクローンの秘宝
遺体から産まれたとされる刃
永遠の都の大逆の証であり
その滅びを象徴する、血濡れた呪物
運命なき者には振るうことはできず
大いなる意志と、その使いたちを
傷つけることができるという
神狩りの剣
かつて神肌の使徒たちを率い
マリケスに敗れた、女王の聖剣
使徒たちの操る黒炎は
この剣よりもたらされた
薙ぎ払う黒炎(一部抜粋)
黒炎とは、すなわち神狩りの炎であった
しかし、マリケスが運命の死を封じた時
その力は失われた
巻き付く二本の曲線。これは過去のエルデンリングに見受けられる特徴である。
恐らくここが死のルーンである。
死と循環
ミミズ顔こと森の民がアルター高原に出現する。ミミズ顔は死の状態異常攻撃を操る。一見、ミミズ顔が死の状態異常を持つことは奇妙である。
死というと、フィアやゴッドウィンなどの、死に生きる者たちが連想される。だが、これはミスリードである。
ミミズは生ごみや大便などの有機物を分解し、堆肥を作ることで有名である。
ミミズ顔のいる森は、祝福によれば豊穣の森とされる。
この世界では、金の排泄物が永遠に温かくて臭いままで土に返らなかった。ならば、永遠の対極にある死をミミズ顔が操るのは納得である。
死は循環を意味する。
ちなみに、ミミズ顔がいる盆地には橋がかけられている。谷や川でもない場所に橋をかけるのは相当珍しい。ふつうなら、ただ盆地を下って上がる道を作ればいいだけである。
この橋を作ったのは黄金律の人々だろう。ならば、ミミズ顔はローディルの人々と敵対していたのかもしれない。
ミミズ顔はファルム・アズラにも存在する。彼らは古くから存在していたようである。
黄金律は死のルーンを取り除くことから始まった。
なら、死の状態異常を操るミミズ顔を、黄金律の陣営は厭っていたのではないだろうか。
事実、ローデイル兵とミミズ顔は近付くと戦い始める。
黄金律は、原初の黄金に近い坩堝の騎士たちを忌み嫌う。
ミミズ顔は、小黄金樹のそばにいて森の民と呼ばれている。そうであれば、黄金樹から死が取り除かれて黄金律が誕生する前には、ミミズ顔は坩堝の騎士と同様に、黄金樹の味方だったのではないだろうか。
実際、ミミズ顔は犠牲の細枝をドロップする。犠牲の細枝は、古い時代に黄金樹を枝打ちしたものであるという。
犠牲の細枝
それは、古い時代に枝打ちされた
黄金樹の一部であるという
ミミズ顔の多くは泣いている。
何故泣いているのだろうか。
泣きながら嘔吐している個体もいる。
ミミズ顔は金の排泄物をドロップした。
金の排泄物
何者かの排泄物、金色の大便
アイテム製作に用いる素材のひとつ
森や茂みに、隠れていることが多い
金色の大便は安定性が高い
乾かず、その熱と臭いを失わず
それはずっと大便である
我々の世界のミミズは糞便を分解できる。
ミミズ顔も同じような働きを担っていた。
ならば、金の排泄物を分解できずに、腹を下して泣いているのではないだろうか。
ところで、ミミズ顔のいる豊穣の森付近の放浪の民からは、交差樹のタワーシールドが購入できる。
交差樹のタワーシールド(一部抜粋)
全身を覆うほど大きな鉄製の大盾
古い交差樹の意匠が描かれている
交差樹は巻き付く二本の曲線の形をとっている。
古い、と書かれているのは、交差樹が死のルーンを象徴していたからと考えられないだろうか。
ところで、死のルーンが取り除かれる前の原初、坩堝の騎士はその原初の力を使う。坩堝の騎士たちの装備は二種類あるが、その片方を見る。
坩堝の樹鎧(一部抜粋)
原初の黄金樹、生命の坩堝の力を宿し
坩堝の諸相の祈祷を強化する
巻き付く二本の曲線があしらわれている。
死と巻き付く二本の曲線がセットになる。
憶測であるが、この巻き付く二本の曲線はDNAを意図して製作側がデザインしたのではないだろうか。
DNAはよく生物の進化の話で語られる。進化は進歩のイメージが付きまとうため、良い方面ばかり語られるのだが、必ず死を必要とするのである。より適応できる者ほど生きのこりやすく、そうでない者が死にやすい。そうして循環することで、生物が環境に適応できるのである。我々の世界でも、死とは循環を意味するのである。
(進化論の話は長いので割愛するが、進化は死による循環がないとありえない)
諸々の資料を見るに、巻き付く二本の曲線が死と関係するのはほぼ確実である。
ここまでで、エルデンリングの違いのいくつかが律の違いに対応付けられることがわかった。だが、これだけでは説明できないことがある。
弧の模様や格子の模様は何を意味するのだろうか。また、木の根のような模様は何だろうか。
エルデンリングを宿す神
マリカのエルデンリングと過去のエルデンリングの違いは、律の違いに加えて、神の違いにあると考えることで更に説明ができる。
エルデンリングには神によって異なる模様が盛り込まれる。
現在の神は、マリカ、そしてラダゴンである。各地の教会を見ればわかるように、それぞれを象徴とする模様がわかる。
マリカは弧、ラダゴンが格子を象徴とする。これは、マリカの刻印、ラダゴンの刻印からも分かる。
現在のエルデンリングに盛り込まれている弧と格子は、マリカとラダゴンを意味することがわかった。
では、過去のエルデンリングにだけある残りの特徴、木の根のような模様は何を意味するのだろうか。
黄金の律が死のルーンを取り除いて始まったとしか作中で言及されていない。そのため、他に取り除かれたルーンは存在しないものとして話を進める。
そうすると、この模様は恐らく神に由来するものである。
では、どの神であろうか。
王朝遺跡の像、この人物の模様であると考察する。
この像には木の根のようなものが生えている。
王朝遺跡の老神
王朝遺跡の像のおじいさん。これでは長い。
便宜上、老神と呼ぶ。
老神の像は、ウルドの王朝遺跡、ウルの王朝遺跡、モーグウィン王朝廟など、古い王朝の遺跡のあらゆる場所に転がっている。
私はこの老神が、ファルム・アズラの神であると考えている。
それどころか、恐らく狭間の地に降り立った最初のエルデの神である。
こちらがこの考察の続編です。
「ゴッドフレイ以前の王 四鐘楼の正体 古い神」エルデンリング考察 - Ashlasの考察